![]() パン・ド・カンパーニュ |
納得のいくルヴァン(酵母)が出来なかったのです。 2001年夏。わたしはルーアンの老舗石釜パン屋『オズモ』にて働いていました。 オズモではバゲットとパンドミ(食パン)そしてヴィエノワズリー以外の ハード系のパンは全てレーズンの自然エキスから起こしたルヴァン(酵母)種を使用していました。 ![]() そのパンはすべてぶなの木の薪で高温に暖められた石釜の余熱で焼かれるという 配合からミキシング、成型から焼成までまったく正当な伝統製法で作られていました。 わたしはその一部始終を彼らのかたわらで働きながら観察し時として 事細かに教えてもらう幸運に恵まれたのでした。 日本に帰国して、早速その製法でルヴァン種を起こし、極力手を加えずレシピに忠実に パンを再現することに意識を集中して試作を繰り返しますが、どうしてもうまくいきません。 理由は明白でした。 ![]() パンでもケーキでも同じですが、日本とフランスの環境の違い つまり、小麦粉・水・砂糖・塩・乳製品などの原材料の性質の違い そし日本とフランスの気候の違い。単なる温度の差だけではなく問題は湿度。 それは単純な空気中の水分量の違いだけではない、なんというか地中海気候の空気と 亜熱帯気候の日本の空気の質、どうにも埋めがたい環境の違い。ヨーロッパを旅した人ならわかる あの飛行場に到着した時の乾いた独特の空気のにおい。日本とはまったく違う空気の肌触りを感じるはずですが その差こそ、パンオルヴァンを再現するのにおおきな障害となっていました。 やっぱり。。予想はしていたものの、ここまで見事に失敗を繰り返したことは今までもありませんでした。 バゲットにしてもクロワッサン生地にしても若干の調整を加えることによって比較的短期間で その溝を埋めることに成功していたのでした。 どんなに神経を使って酵母をつないで培養していっても、思っている風味がでない。 頭の中にあるオズモのカンパーニュ ![]() ![]() それは数日でできあがる酵母ジュースを香り付け程度に混入した軽い風味のそれではなく、 元種培養だけで一ヶ月近くを費やし濃厚な酸味を持ったクラッシックなルヴァンを使用し、 焼きあがれば香ばしい醤油のような香りと、熟成した酵母生地が長時間の発酵と 焼成中の化学変化によって噛むほどに、まるでワインを飲んでいるような複雑な甘い風味をかもし出す。 というパン職人としてこの味に出会ったときに深い感動を覚えた天然酵母パンの王様「カンパーニュ」 頭にあったのはただそのことだけでした。 ![]() 何度も何度も試作を続けますが、納得のいく味が出ない。 再度の渡仏 頼りにしている記憶の中の味のイメージも、時の経過とともにぼやけてくる。。。 昨年思いきってルーアンに帰省(?)したのは、 じつはこのカンパーニュの味をもう一度確かめるためでもありました。 4年ぶりに再会したシェフのジャンマルク氏からルヴァンの製法を確認し、味もしっかり記憶にとどめてきた。 そして結果、その後一年以上の試行錯誤を繰り返し、気がつけば開店から4年という時が経っていた。 正直こんなに時間がかかるとは思いもしなかった。 ぱぴ・ぱんのカンパーニュ 長い時間はかかりましたが、ようやくルーアンの空の下で食べたあのカンパーニュを再現することが出来ました。 そして、この思い出深いパンの味をたくさんの人に広めていけたらという思いを込めて このパンの名前を「カンパーニュ☆ルーアン」と名づけました。 (ルーアンとはフランス北東部ノルマンディー地方の小都市です) フランスの伝統を受け継いだルーアン生まれのカンパーニュを是非味わってみてください。 天然酵母の田舎パン(カンパーニュ) ルヴァン(酵母)を使ったパンの楽しみは、その酵母の調子によって毎回微妙な味の違いが出るところです。 酵母の酸味が強かったり、砂糖をつかっていないのに自然に出てくる生地の甘味を強く感じたり、 その時々よって今日はこんな感じだったあんな感じだったと楽しみながら召し上がってください。 それは、果物がひとつひとつ味が違うこと、ワインが毎年毎年味が違うことにも似ています。 フランスの田舎パン(カンパーニュ)は自然の中で生きている天然の酵母から生まれたパンの源流に 一番近い味わい深いパンなのです。 |
休み明けの毎週月曜と 隔週の火曜日は焼きません それ以外毎日焼き出します。 今月のおすすめ |